1.書籍概要
- 書籍名:危機を乗り越える力
- 著者名:浅木泰昭
- 出版社:集英社インターナショナル
- 価格 :1,600円+税
- 発行日:2024年3月31日
【書籍帯コメント】
- 日本一売れている車「N-BOX」とF1最強PU(パワーユニット)を生んだ稀代のエンジニアによる唯一無二のリーダー論
- 芸能界随一のF1ファン堂本光一氏との対談を収録
2.読書感想文
①全体所感
この書籍には世の中に残る名言フレーズがある、というわけではありません(私は心に響いたフレーズはありましたが)。この書籍1冊丸ごとが名言である、そう考えていただくと、この書籍の印象がつかめるかもしれません。
つまり、部分的に読んだだけでは、浅木氏の伝えたいことを理解するのは難しい。最初から最後まで通して読むことで、技術者としてどのような考えでチームを引っ張ってきたのかを体感することができるはずです。
山あり谷あり。そんな人生であっても決して折れることなくやり抜き、取締役まで上り詰めたエンジニアの浅木氏が執筆するこの書籍で、私自身は励まされました。
変わった人間が未来を切り開く。確かに人間関係が非常に難しい世の中ではありますが、そこをリーダーとして若手を引っ張っていくパワーと人間力。ご自身が苦労したからこそ、その苦労が自然と外側に滲み出ているのだろうな、と浅木氏の雰囲気すら読み取れる素敵な一冊です。
②本書から学んだこと(フレーズ)
- 成功体験は「自信を得る」という意味では重要ですが、何か新しいことに挑戦するときには、逆にその「成功体験に縛られてしまう」可能性があります。
新しいことを始めることだけでなく、成功体験=過去の栄光にすがっている人が非常に多い。確かに、輝かしい功績は称えるべきであるし、忘れてはならない。しかし、その事象から新しいモノはなかなか生まれてこない。成功体験とこれからの体験は切り離して考えるべきなのだろう。それはそれ、これはこれ、というように。ただし、すべてをリセットするわけではなく、その経験や体験を「活かす」こと、「発展させる」ことを心がければよい。
- 個人の能力とセットで、周囲の人の気持ちを理解し、巻き込んでいくことの重要性を知りました。
まず能力があることが前提である。能力不足では役に立たたない。そういう意味で、このフレーズはある一定以上のレベルに到達している集団の中での話になる。巻き込むために必要なことが他者を理解すること。そのためには、話を聴くことや同じ時間を共有(例えば飲み会をするとか)する必要がある。ただし、これらを望まない相手もいるだろう。それ自体を理解して受け入れていかなければならない。それだけ、リーダーには心の強さ、人格が必要だということを感じた。
- 外すことを恐れた戦略をとると、当たることもゼロになってしまう
チャレンジをしない組織に対しての危機感を語っているフレーズ。利益が十分に出ている状態になると、安泰を求めたくなる心理も分からなくはない。しかし、利益がある時こそ、次へのチャレンジに向けた金銭的資産はあるはず。守りに入ることで、長い目で見ると衰退へと進んでいくことになる。
特に技術を競い合う業界でそうだと思うが、どのような組織であっても現状維持は衰退である。言葉では簡単なのだが「行動」を伴うと途端に難しくなる。そこには「リスク」があるからだ。積極的にリスクをとった行動ができるのか?年齢を重ねるたびに守りに入りやすく人間は変化する。守るものが増えるからだ。しかし、最後の最後までチャレンジし続けた浅木氏をお手本にしていきたい。
- リーダーというのは檄を飛ばすだけでは誰もついてきません。同時に希望の光も見せなければなりません
浅木氏はこのフレーズのあとに「バランスや匙加減が大切だ」と言っている。恐らく、バランスや匙加減はリーダーとしての最終項目ではないかと思う。
檄を飛ばすのは簡単である。難しいのは希望の光を見せることだろう。途方もないチャレンジであっても「できる」と思わせること。これはテクニックではなく、そのリーダーの内面からにじみ出るものに起因する。そしてそれは、一朝一夕では身につかないものだと思う。様々なな経験、苦労、失敗や成功を体験したからこそ持ちうる、言葉にはできないもののはず。これらが身についた上での匙加減。浅木氏はこの匙加減が難しいと言っている。まずは匙加減が必要なレベルに到達できるようにしよう。
- 一番のライバルや敵は社外ではなく社内だったりします。
大企業にありがちなセクショナリズムについての話であるが、企業規模によらず、敵は社内に多いことがある。不必要に足を引っ張る人間も組織内には一定数いる。恐らく、その背景には嫉妬などがあるのだろう。純粋に前を向き、新しいことに挑戦する環境が多くの企業で用意できれば、きっと日本の未来は明るい。日本の技術力は決して海外に劣っているとは思えない。必要なのはチャレンジする環境とそれに対する評価制度だと思われる。話がそれてしまったが、社内に敵が多いのは、いつも感じている。
- リーダーが部下や協力してくれた方に対して、感謝の気持ちをきちんと伝えることは大事なことです。
時と共に忘れてしまう気持ち。特にひとつの企業に長くいると「慣れ」ということから、このような大切な基本が抜け落ちることがよくある。感謝の気持ちを持つだけでは意味がない。伝わって初めて意味がある。注意しなければいけないのは、感謝の気持ちがない状態で感謝の言葉を述べること。間違いなく簡単に見抜かれてしまう。特にリーダーは常に多くの人から見られている。嘘や偽りは、その人に対してだけでなく、その他大勢にも影響を与える。感謝の気持ちを伝えるには、それぞれに対して心から感謝すること。心のどこかで「私のおかげだ」という慢心があるのなら、まずはそこを消すことから始めることだ。
- 上司の顔色をうかがうよりは、お客さんが喜ぶことを追求したほうが面白いよ
浅木氏は「技術者として」の話をしているが、これは職種を問わずすべてに当てはまる。モノづくりはもちろんのこと、営業職もそう、サービス業などもそうである。ビジネスはどのような形態であれ、必ずその先にお客様がいる。エンドユーザーがいる。自分だけで完結できるビジネスというのはほぼあり得ないだろう。ビジネスにおける原点でありながら、サラリーマンであると忘れてしまうこと。毎月必ず一定の収入が得られるメリットは、いつしか心を腐敗させてしまうことがある。そうならないように、この言葉を改めて胸に刻み、仕事に、ビジネスに向き合っていきたい。
- 悪い波のときは無理をせずにうまくしのいで、もう一回次のチャンスが来るまで待つ。チャンスは必ず来るので、いい波が来たときにはつかみ取る。
個人的にとても共感できたフレーズ。状況を客観的に把握せずに、「こうあるべきだ」を押し通そうとして失敗したこと数知れず。同じ内容でも、時と場合によって受け取られ方は180度変わることがある。何事においても「相手」が必ずいる。相手が受け入れる態勢ではないときに動いても、聞き流されるのが関の山。状況を見定める力を持つためには、日ごろから組織内でのコミュニケーションが大切だろう。また、自ら波をつくるという発想もある。これはまさしく企業規模によるだろう。中小企業であれば波は作りやすいかもしれないが、大企業ではそう簡単にはいかない。チャンスがくるまでとにかく耐える。次のチャンスをひたすら信じて待つ。ただ、待つのではなく、この間に爪を研いでおくことも必要だ。
- 自分に能力があるかなんて誰にもわかりません。あると信じてやってみるしかありません。
自分を一番信じてくれるのは恐らく自分なのだろう。みな、確固たる自信があるわけではない。しかし、新しいことにチャレンジするためには、「できないかもしれない」という後ろ向きの気持ちでは、そもそも一歩を踏み出すことが困難である。チャレンジして成功する。そこには隠れた失敗がいくつもあるはずだ。その隠れた失敗を糧にするかしないか。糧にして成功へ突き進めばいい。そして諦めないこと。成功する秘訣は、成功するまで続けることだ、と言った偉人がいた。失敗と認定して辞めてしまうから失敗になるだけのこと。
- この世の中に自分が存在した爪痕を残したいという思いで働いてきたような気がします。
若い時にはそう思って、何でも前向きにとらえて挑戦してきた。いつからか、守りというか、チャレンジすることに前向きになれなくなっている自分に気が付いた。「どうせやっても・・・」という考えが出始めていることを否定できない現在。きっと何かを求めつつ、それを得られない虚しさがあるのかもしれない。サラリーマンだからこその苦悩。新しいステージを探しにいくこともひとつなのかもしれない。そういう岐路に今立っているのだろう。
3.お知らせ
筆者はリタイア60の名前でSNSをはじめとした発信活動を行っています。ご興味がある方は是非ご覧ください。