こんにちは!教育業界一筋、20年以上のリタイア60です!
- ESAT-J初年度の結果詳細が発表!
- 東京都教育委員会は更に英語力の底上げを目指す!
英語教育に関して先陣を切っている東京都教育委員会(以下、都教委)。豊富な財源を活用し、異次元の英語教育を推進中。今後の動向は注目です。
そこで今回は、発表されたESAT-J初年度の結果考察と、東京都が予算組みをした英語教育事業について解説。そこから見えてくる、東京都の英語教育とは?
※記事の最後に東京都教育委員会発表資料へのリンクがあります。
1.ESAT-J初年度の考察(スコア分布)
①ESAT-J GRADE の分布
GRADE分布は「令和3年度」のプレテストから公表されるようになりました。前年度との比較は以下のようになりました。
GRADE | R3 | R4 | 前年比 |
---|---|---|---|
A | 11.7% | 16.8% | +5.1% |
B | 20.3% | 25.6% | +5.3% |
C | 27.0% | 31.4% | +4.4% |
D | 23.9% | 16.9% | ▲7.0% |
E | 15.3% | 8.3% | ▲7.0% |
F | 1.9% | 0.9% | ▲1.0% |
平均 | 53.7点 | 60.5点 | +6.8点 |
- A評価が+5.1%、3,631人増(令和4年度受験者数:71,197人)
- C評価以上では合計+14.8%、10,537人増
高評価を獲得する生徒が大幅増!しかし、たった1年間で「話すこと」がここまで急激に改善されるしょうか?
これら3つの要因について、調べてみました(2023年1月31日時点)。
以上から、ESAT-Jの結果に対する「疑惑」が頭に浮かんできます。しかし、この時点で結論を出すのは早い!そこで、スコア分布についても確認していきましょう。
②スコア分布
スコア分布(100点満点)についても、令和4年度では高評価が増加。受験者数が異なるので単純比較とはなりませんが、令和元年度からの推移を見てみましょう。
- スコア100(満点)が令和3年度の2倍以上
- ボリュームゾーンはB評価とC評価→あまり差がつかない
- 低評価(E評価とF評価)が大きく減少
GRADE | スコア | R1 | R2 | R3 | R4 |
---|---|---|---|---|---|
A | 100 | 1.6% | 1.2% | 1.1% | 2.5% |
A | 90~99 | 2.5% | 2.0% | 2.5% | 4.2% |
A | 80~89 | 4.4% | 7.4% | 8.1% | 10.1% |
B | 70~79 | 17.7% | 12.4% | 12.1% | 15.6% |
B or C | 60~69 | 18.2% | 16.2% | 17.1% | 21.0% |
C | 50~59 | 17.6% | 23.2% | 18.0% | 20.5% |
D | 40~49 | 13.9% | 15.4% | 16.7% | 13.1% |
D or E | 30~39 | 10.1% | 9.9% | 12.3% | 6.6% |
E | 20~29 | 7.0% | 6.6% | 5.5% | 2.9% |
E | 10~19 | 3.4% | 3.1% | 3.5% | 1.7% |
E or F | 0~9 | 3.4% | 2.7% | 3.1% | 1.8% |
プレテストと比較して大きく変化!前述の「3つの要因」から、唯一得点に結びつく内容は「テスト慣れ」「学習塾などの対策指導」。対策期間が4カ月程度と短期間であることを考慮すると、「テスト慣れ」の方がしっくりくるでしょう。
- 「テスト慣れ=英語力の向上」ではない
どちらかというと「テスト慣れ=英語での回答方法に慣れた」ということ。英語を発することへの抵抗が薄れたという効果はESAT-Jを通して成果があったと考えることもできます。話すことの対策をやらなかった時代からすれば、英語教育が変化したと言えるかもしれません。
それでは、観点別評価の推移も確認して、ESAT-Jの結果をさらに深掘りをしましょう!
実は、観点別評価の状況から、先程記載した「疑惑」の理由がわかるのです・・・。
2.ESAT-J初年度の考察(観点別評価)
①コミュニケーションの達成度
コミュニケーションの達成度(相手に意図を伝わるかを評価)では、以下のような推移となっています。※令和元年度のデータはB・C・Dが合算で表記されているため、%は全て同じです。
- PartBは令和3年度より難化した(No.4は難しいという評価だった)
- PartCの達成度アップ(実施直後は難化したと言われていたのに)
- PartDがあり得ないほどの達成度の上昇
Part B | No.1 | No.2 | No.3 | No.4 |
---|---|---|---|---|
令和4年度(本番) | 48.0% | 44.8% | 82.3% | 52.0% |
令和3年度(プレ) | 42.3% | 54.7% | 90.3% | 57.2% |
令和2年度(プレ) | 73.5% | 45.8% | 80.6% | 41.3% |
令和元年度(プレ) | 72.4% |
PartBは、絵を見て質問に答える問題。概ね実施直後の評判通りの結果。前年比では達成度が減少傾向ですが、入試ではよくあると言えるレベルの差異でしょう。
Part C | 1コマ | 2コマ | 3コマ | 4コマ |
---|---|---|---|---|
令和4年度(本番) | 85.4% | 46.1% | 52.8% | 46.3% |
令和3年度(プレ) | 78.5% | 33.9% | 28.3% | 48.2% |
令和2年度(プレ) | 66.6% | 38.6% | 34.9% | 37.6% |
令和元年度(プレ) | 72.4% |
PartCは4コマイラストの流れを英語で答える問題。令和4年度は、あまり日常では体験しない問題(電車に鳥が入ってきて、帽子の上にとまり、花を置いていく、という流れ)でした。しかし、4コマ目以外は達成度が大幅に向上。
考えられることは、「解答のやり方」を練習で身につけ、短文でも各コマに対して答えるようになった、つまり、「テスト慣れ」ということでしょう。
Part D | 意見 | 理由 | ||
---|---|---|---|---|
令和4年度(本番) | 62.3% | 59.3% | ||
令和3年度(プレ) | 27.4% | 39.5% | ||
令和2年度(プレ) | 70.9% | 53.7% | ||
令和元年度(プレ) | 72.4% |
PartDは英語のビデオレターを聞き取り、自分の意見とその理由を述べる問題。令和3年度に形式が変更になったPart。
「意見」については、「答え方の練習」をすれば達成度は向上します。しかし、「理由」については、「答え方」だけでなく、内容の把握(リスニング力)、思考力・表現力が問われる部分。たった数ヶ月の対策で改善するものではありません。
②言語使用
言語使用(語彙力や文法の正確さを評価)では、以下のような推移となっています。※令和2年度・元年度はC・Dが合算で表記されているため、%は全て同じです。
- PartDの達成度が大幅上昇
- PartCでは若干の上昇傾向
- 言語使用=語彙力や文法力。そう簡単に上昇するか?
Part C | 4 | 3 | 2 | 1 | 0 |
---|---|---|---|---|---|
令和4年度(本番) | 0.0% | 1.1% | 34.9% | 60.6% | 3.4% |
令和3年度(プレ) | 0.0% | 0.6% | 30.0% | 63.5% | 5.9% |
令和2年度(プレ) | 0.0% | 0.3% | 15.5% | 72.0% | 12.1% |
令和元年度(プレ) | 0.01% | 0.4% | 32.0% | 48.7% | 18.8% |
PartCは前年と大きな変化は見られません。しかし、前述のコミュニケーション達成度では大幅上昇しています。言語使用達成度は前年同様なのに、コミュニケーション達成度だけ大幅上昇ということに疑問が生じます。
Part D | 4 | 3 | 2 | 1 | 0 |
---|---|---|---|---|---|
令和4年度(本番) | 0.1% | 1.8% | 40.1% | 50.2% | 7.9% |
令和3年度(プレ) | 0.1% | 0.6% | 27.0% | 47.9% | 24.4% |
令和2年度(プレ) | 0.0% | 0.3% | 15.5% | 72.0% | 12.1% |
令和元年度(プレ) | 0.01% | 0.4% | 32.0% | 48.7% | 18.8% |
PartDは評価0が大幅減少し、評価2が大幅上昇!語彙力や文法の学習は、今までも指導されています。むしろ、スピーキングテスト対策に時間を割いたことにより、指導時間は減少しているはず。短期間の対策をしただけで語彙力・文法力が飛躍的に上昇することはないでしょう。
①コミュニケーション達成度の考察内容を含めて、この時点で「疑惑」が発生します。
- 採点基準が変わったのでは?
特に下位層が減少しているのが気になります。英語が苦手な生徒は毎年一定数います。たった半年程度の対策で前年比で大きく変化するとは思えません。むしろ、短期間の対策で達成度が向上するなら、ESAT-J自体が疑問視されるはずですが…。
③発音
発音(発音の正しさやアクセント、流暢さを評価)では、以下のような推移となっています。※令和2年度・元年度はA・C・Dが合算で表記されているため、%は全て同じです。
- PartAの評価3(最高評価)が倍増
- PartC・Dでは上位評価が大幅増
- PartDの低評価(評価0・1)の減り方が凄い
Part A No.1 | 3 | 2 | 1 | 0 |
---|---|---|---|---|
令和4年度(本番) | 16.5% | 74.7% | 6.3% | 2.6% |
令和3年度(プレ) | 7.7% | 80.2% | 8.2% | 3.9% |
令和2年度(プレ) | 0.7% | 55.8% | 36.0% | 7.4% |
令和元年度(プレ) | 1.0% | 53.0% | 35.8% | 10.2% |
Part A No.2 | 3 | 2 | 1 | 0 |
令和4年度(本番) | 20.4% | 72.9% | 4.4% | 2.3% |
令和3年度(プレ) | 7.4% | 83.0% | 6.7% | 2.9% |
令和2年度(プレ) | 0.7% | 55.8% | 36.0% | 7.4% |
令和元年度(プレ) | 1.0% | 53.0% | 35.8% | 10.2% |
令和3年度での上昇も気になりますが、令和4年度ではさらに評価3(最高評価)が大幅上昇。PartAは与えられた英文を読む問題。発音の正しさや流暢さ、アクセントが、半年程度の対策で向上するでしょうか?
Part C | 3 | 2 | 1 | 0 |
---|---|---|---|---|
令和4年度(本番) | 2.3% | 79.0% | 15.5% | 3.3% |
令和3年度(プレ) | 1.6% | 68.9% | 24.0% | 5.6% |
令和2年度(プレ) | 0.7% | 55.8% | 36.0% | 7.4% |
令和元年度(プレ) | 1.0% | 53.0% | 35.8% | 10.2% |
言語使用では大きな変化が見られなかったPartC。ですが高評価(評価2・3)が大幅上昇。令和4年度の問題はプレテストより答えにくい、非日常的な問題。流暢さは間違いなく低下するはずですが…。
Part D | 3 | 2 | 1 | 0 |
---|---|---|---|---|
令和4年度(本番) | 3.7% | 74.9% | 13.7% | 7.8% |
令和3年度(プレ) | 1.6% | 51.0% | 23.8% | 23.6% |
令和2年度(プレ) | 0.7% | 55.8% | 36.0% | 7.4% |
令和元年度(プレ) | 1.0% | 53.0% | 35.8% | 10.2% |
意見と理由を答えるPartD。高評価が大幅上昇。問題形式や難易度は令和3年度から変化していません。前述の通り、リスニング力、思考力・表現力が問われる問題の結果が、前年比で大きく向上する理由として「テスト慣れ」というには無理があります。
3.考察からの結論
- スピーキングに対する指導が、ここ数年、小学校や中学校で積極的に行われていたでしょうか?
- 今回の受験生たちも令和3年度や令和2年度の受験生と同様に、新型コロナウィルス感染拡大の中で英語を学び、英語の発音練習はやりにくかったのではないでしょうか?
- ESAT-Jは半年の対策で達成度が向上するようなテストなのでしょうか?
- スコア算出には「IRT」が利用されています。令和4年度の受験生は過去と比較してそこまで英語スピーキング力が高いのでしょうか?(問題は大幅に易しくなってはいません)
★IRTとは?★
都教委が発表した資料を分析することで、「疑惑」が「確信」に変わりました。
- 「コミュニケーション」および「発音」に対する採点基準が易しくなった!
言語使用は語彙力や文法の正確さを評価する項目。この採点基準を変えることは難しいでしょう(筆記試験では不正解とするため、入試との整合性が取りにくくなるから)。
コミュニケーションおよび発音の達成度の部分は、人が採点する上で一番曖昧になる部分のため、調整をすることがやりやすい、ブラックボックスの箇所だからです。
邪推ではありますが、都教委として「英語教育改革の成果た」を表現したかったのではないかと考えています。その背景には、この後に紹介する、今後の都教委の取り組み(予算取り)が関係していると考えています。
そうでないことを願いますが、裏で採点基準を変えることによって、IRTは意味をなさないものになり、そして、ESAT-J自体の価値は低下することになるでしょう。
それでは最後に、今後の都教委の取り組みを分析していきましょう。
↓ESAT-J本番の問題分析はこちら↓
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☆今回の分析に利用した東京都教育委員会発表の資料はこちら(外部リンク)
4.都教委の今後の取り組み
- 予算が69億円→132億円へ!
東京都は「グローバル人材の育成」において、令和5年度では、令和4年度予算の約2倍を申請。上記画像はその予算の内訳から、注目箇所をピックアップ。
この中で、特に注目すべき項目は3つ。簡単ではありますが、1つずつ確認をしていきましょう。
①東京都英語スピーキングテスト事業
中学1・2年生に対して新たに英語スピーキングテストを実施。この予算が確定したのは、まだESAT-J実施後の考察が発表される前(2023年1月27日)。つまり、ESAT-Jがどうであろうと、この件は既定路線だったということになります。
令和4年度は5億円だった予算が、令和5年度では35億円へと7倍に!読売新聞2023年1月26日の報道(外部リンク)では、以下のポイントが挙げられています。
- 高校入試の合否には用いない。
- 学年末をめどに、各中学校で行う方向で調整。
直接的には高校入試に利用しなくとも、評定(内申点)には何らかの影響が出てしまうのは否めません。
②オンライン英会話事業
新たに13億円の予算を計上。指導形態はマンツーマン(1対1)。対象は都立高校の全生徒。2023年1月末時点の都立高校生は約12万人。単純計算で10,000円分/人。1回1,000円のレッスンと仮定すると、年10回。つまり、月1回のオンライン英会話と予想されます。
英語スピーキングの壁は「外国人とのコミュニケーションの壁」。この壁を打ち破るには、「英語が通じたという経験を数多く体験すること」が大切。そのためには、オンライン英会話はとても効果的です。
この視点から言うと、素晴らしい決断を東京都並びに都教委は行ったと言えますが、どこまでの成果が出るかは未知数です。
③外部試験の活用
画像では「TOEICなど」と表記されていますが、間違いなく「英検」も入ってくるでしょう。ESAT-Jの採点を請け負ったベネッセが実施している「GTEC」が採用されるかどうかが注目。
- ESAT-Jの問題はGTECに似ている!
これはESAT-J実施前に指摘をされていた内容。外部試験にGTECが対象となった場合、ベネッセとの関係性がより一層疑われることになるでしょう。この点は都教委も配慮をするはずです。
このように、東京都の英語教育は大きく変わります。様々な意見や考えがあり、反対運動も起こっています。しかし、何かを変える時、この代償は仕方ないこと。大きな変化を巻き起こす東京都の英語教育に、今後も注目していきましょう。
5.お知らせ
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