1.書籍概要
- 書籍名:日立の壁
- 著者名:東原敏昭(日立製作所会長)
- 出版社:東洋経済新報社
- 価格 :1,800円+税
- 発行日:2023年4月23日
【書籍帯コメント】
現場力で「大企業病」に立ち向かい、世界に打って出た改革の記録。
製造業史上最大の赤字からⅤ字回復を果たした日立。しかし、そこからさらなる闘いが始まった―。
企業にはいくつもの壁がある。大企業・日立の壁はとりわけ高い。
2.読書感想文
①全体所感
日立という大企業で東原氏がどのような問題と向き合い、それを乗り越えるために何を考え、行動したのか。また、何が東原氏の支えになったのかを、読者として疑似体験することができる良書。
書籍の中で語られる東原氏の体験からもわかるが、氏も常に書籍を片手に学んでいた。この書籍を手に取った読者と同じ道を通ってきたという親近感を感じることができる。
壁を乗り越えた後に見える景色を読者にわかりやすく、かつ、親しみやすく書いてくれていることに、氏とは一度も面識はないのだが、何か近い存在のように感じる不思議なリズムを文章に感じた。
お酒を片手に、気楽に本書に向き合うことで、東原氏と居酒屋で話をしているという感覚になることができ、非常に面白かった。
書籍を通しての人との出会い。その大切さを改めて感じさせてくれる書籍であり、大企業でしか体験することができない、貴重な場面を共有できたことに心から感謝したい。
②本書から学んだこと(フレーズ)
- 少にして学べば、壮にして為すことあり。壮にして学べば、老いて衰えず。老いて学べば、死して朽ちず。
幕末の儒学者・佐藤一斎の言葉。東原氏が川村氏から投げかけられた言葉であり、川村氏の書籍にも登場する。川村氏は東原氏の前の日立のトップ。川村氏の社長論がこの言葉に詰まっており、これを東原氏はしっかりと受け継いだ。
- 勉強して『Impossible』にアポストロフィを入れて『I’m possible』にする。
東原氏が社長業を引き受けると決めた時に、川村氏へ伝えた名言。悩みに悩み、引き受けるという結論に至るまでに東原氏を支えたもの、それが、知命と立命。この2つを懸命に実践していくことで、宿命を運命に変える、ということ。
- 大改革を断行するときは、説明より結果が大事な時がある。
同じレベル、想像力がなければ説明を受けても理解はできない。ビジョンをイメージすることもできない。その結果発生する疑心暗鬼。同じ方向を見て、同じ夢や理想を描き、組織として前進するために、強引なやり方をするならば、結果が全てである。
- 流れる水は腐らず。しかし、流れない水、淀んだ水は腐る。
新陳代謝がなく、現状に安住し、硬直化していては、人間は腐っていく。新しいコトへのチャレンジ、それを容認し後押しする組織体制。人財なくして組織なし。その人財の腐敗は組織の腐敗となる。チャレンジ精神を育て上げる環境づくりが組織運営には大切。
- 適所適材は人事の原則。個人的な感情や年功序列は関係ない。
学生時代の部活動なら好き嫌いで選ぶのも良い。しかしビジネスの場では通用しない。必要な能力をもったもの、自ら目標をもって一生懸命に努力するものを任命すべき。耳障り良い言葉ばかりで周りを固めると、裸の王様になる。
- ボトムアップ。社会の課題を自分の問題としてとらえて、自分たちに何ができるかを考えて、それをビジネスにつなげていくこと。
抽象的な言葉で言えば「主体性を持って取り組む」こと。現指導要領評価項目の1つになっている。組織が大きくなればなるほど、問題を他人事としてとらえ、単に売上が上がれば良いという思考に陥ることも。真の意味で課題解決に取り組むことができる人財を育てる、人材として成長すること。
- 利他の心。自分と社会のつながりをつねに意識し、社会のニーズを察知する心。
東原氏は以下のようにも言っている。『お客さまとの協創には、お客さまの課題を共有することが大切です。日立の製品を買ってもらうことばかりを考えていては、お客さまの直面する課題は見えてきません。』私もかつての上司に言われたことがある。お金はあとからついてくる。見るべきはそこではない、と。
- たったひとりしかない自分を、たった一度しかない一生を、ほんとうに生かさなかったら、人間、うまれてきたかいがないじゃないか。
山本有三『路傍の石』の一節。企業戦士として人生の大変の時間を仕事に費やすなら、仕事の中で自分を成長させ、生きがいを見つけなさい、という趣旨。これはどのような立場のひとにも通じる。そして、本人次第という、一見冷たくも感じるが、誰にでも可能性があるということ。明日からと言わず、今から、気持ち新たに生きていくべき。
- どのような事業においても、組織としてのルールと教育が大切である。
どのような仕事でもそうだが、特に長期にわたるプロジェクトなどでは、誰か1人では仕事はできない。また、技術を伝承して、次世代に繋いでいかなければならないということもある。優秀な1人より、上記の内容の方が大切。繰り返しになるが、組織は人の集合体だから。
- 外に出たら自分は日立の代表。だから、改善すべき点がみつかれば、部署や担当が違っても、外で得た情報は担当にフィードバックする。
外の情報はお客さまの声、時代の流れ、新しい発見など。縦割りが強い組織ではこれが通用しないからこそ、発展スピードが遅くなる。老舗企業にはよくある高い壁。この壁を打破する力、いや、情熱。それこそが組織の改革に必要不可欠であり、壁を打破することができれば、組織は生まれ変わる。
- 部下を大切にする熱く厳しい上司の方々との出会いがなければ今の私はいませんでした。
感謝。社内外共にこの気持ちを持って日々仕事に打ち込まなければならない。それはわかっているものの、そう思える人財に出会えるかどうかは運の要素も含まれる。それならば、自分で自分を磨き、そのような人財になり、自分からその起点を作ればいい。
- 感情的な反発が起きると、うまく行くはずのことですらうまくいかなくなる。
前述の利他の心に通じる。本書では社内に対しての場面での話。相手を思いやる心、相手の立場に立った発言ができることは、上に立つ人間に必要不可欠な素養。多くの人と出会い、共に仕事をしていく中で磨かれるという側面があると感じる。自分本位だけの思考に陥らないように注意したい。
- M&Aは結婚のようなもの。スペックや条件が見合っても、相性が悪ければうまくいきません。互いの価値観や人生観のすり合わせも重要です。
M&Aに限らず、業務提携や代理店契約、もっと小さい単位になれば、業務に導入するツールなどにもこの考えは及ぶ。一見良さそうに見えるモノでも、相性や互換性、お互いのミッションやバリューなど、完全一致でなくともベクトルが同じであることが望ましいということ。
- 会社の成長のためには、社員の成長が欠かせません。
環境の話。自分の将来のキャリアを考えながら、目指したいポジションに向けて手を挙げ、そこに就くために必要な教育が受講できる環境。今後、年功序列の企業は淘汰されていく。優秀な若手や経験者などが「入社したい」と思える環境づくりが組織運営には必要である。
- 人間、参加しないとモチベートしません。逆に、自分が参加して主体的にしたことは、すべて肯定的にとらえる。
人を巻き込む大切さ。理屈だけではなく、行動。そして、その行動についていきたいと思える人間性。自分1人が動くことは簡単だが、人を参加させることに大きなハードルがある。抽象的な話であるが、パワフルさも必要。演じることでは表現できない何か。それが大前提として必要だろう。
3.お知らせ
筆者はリタイア60の名前でSNSをはじめとした発信活動を行っています。ご興味がある方は是非ご覧ください。